むかし、航空貨物の輸出の通関士をしていました。
通関部門の仕事って、通関士だけがやっているわけではありません。むしろ、通関士以外の通関業務従業者の仕事のほうが重要かもしれません。通関士の審査までに、実はいろいろやっているんです。
通関士以外でもできる仕事:申告書作成
通関書類受領
通関部門では、営業部門を経由してお客様の通関書類を受領します。
申告書作成担当者は、
- 申告に必要な書類が揃っているか
- 受領した書類に不備がないか
- 品目分類に足る情報があるか
を確認します。
具体的には、該非判定書が揃っているか、判定根拠は妥当か、型名が一致するか。インボイスに貨物個数、決済方法、インコタームズ、原産国が記載されているか。品名からHSコードを決められるか。減免税申告であれば条件を満たす書類が揃っているか。を見ています。情報が足りなければ、営業部門に確認します。
申告書作成
申告するには、貨物を統計品目番号(統番)ごとに分類し、それぞれ申告価格を計算する必要があります。輸出統計品目表という分厚い紙の本をめくりながら、統番を探したり、比較したりします。よくある貨物の統番は10桁すべて記憶しています。
複数の品目がある場合は、線引きと呼ばれる作業をします。
インボイスに記載の品名ごとに鉛筆で線を引き、同じ統番になるかどうかを判断します。同じ統番になるものに対し、①②③...というように番号を付けてそれぞれの価格を計算します。
準備ができたら申告に必要な事項をNACCSに登録(事項登録)し、事項登録した内容をチェックします。特に注意するのは、
- 輸出者符号(輸出者名)
- インボイスの価格、桁数
- 通貨種別
- 輸出貿易管理令等他法令の有無
です。
通関士の資格を持っている新人よりも、資格を持っていないベテランのほうが、いうまでもなく仕事はこなせます。
ここだけのはなし、申告書作成までが完璧にできていれば、通関士は(審査はしますが)実質的にはほとんどやることがなくなります。
通関士の仕事:審査
通関士はインボイス等関係書類を確認して、輸出申告書の内容を審査します。基本的には、申告入力控に記載されているほぼすべての項目を見ています。
最も重要なのがオレンジ部分、次に緑色部分です。
黄色部分は通常の輸出申告では重要度は低いですが、減免税申告等の場合にはミスできないので重要度が上がります。
申告の基本情報の審査
- 輸出者名:絶対に間違えてはいけません。輸出者名を最後の文字まで見ておかないと、グループ会社名で間違えて申告してしまうこともありえます。
- 最終仕向地:外為法にも関係するので重要度は高いです。最終仕向地次第では、審査を特に慎重に行います。イラン、イラク、北朝鮮、国連武器禁輸国、今ならロシア・ベラルーシ向けが出てきたら、いったん立ち止まると思います。
- 申告種別・提出先:通常の輸出申告/特定輸出申告かの種別や申告先種別、提出先に誤りがないかを確認します。
輸出ライセンス、価格の審査
- 輸出承認証等区分・番号等:ライセンスを使うかどうか、使う場合はライセンス番号が正しいか、有効期限内かどうかを審査します。特例を適用する場合は、特例の条件を満たしているか、正しいコードが入力されているかを審査します。
- 仕入書価格、FOB価格、BPR合計:通貨種別、桁数の誤りがないか注意します。BPRはベーシックプライスといい、統番を複数に分類したときに、按分した価格の合算値が自動で出てきます。計算に誤りがないかをBPR合計でチェックします。
品目欄の審査
- 価格再確認:申告価格(数量当たりの価格)が税関の価格レンジから外れると、高いか安いかが表示されます。表示が出たら、申告価格、申告数量、統番に誤りがないかを再確認します。誤りがなければ、税関に高いまたは安い理由を説明できるよう、お客様に問合せます。税関に説明しないままにしておくと、あとから必ず理由を問われます。
- 関税法70条関係、輸出令別表:該当項番、該当する法令をコードで入力します。入力したコードが正しいかも注意します。
審査の段階で、誤り等見つかれば何度でも訂正できます。しかし、申告ボタンを押したら最後、基本的に後戻りはできません。通関士は緊張感をもって申告ボタンを押します。
申告後許可まで
多くの申告は即時許可になります。しかし、最終仕向地や統番などによって、またはランダムで、税関の書類審査や貨物検査になります。
書類審査や貨物検査で時間を喰っていると、社内関係部門から「早く許可を切って」「あと〇〇分で許可ください」と急かされることもあります。でも、許可を切るのは通関士ではなく、税関ですので、そんなこと言われてもどうしようもありません。税関が審査・検査をしていると答えて、あとは適当に聞き流します。
こんなことが私の日々の仕事でした。
税関の審査についてはこちらをご参考に。