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「輸出」と「貨物」の定義まとめ(関税法と外為法の微妙な関係がわかる)

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「輸出」と「貨物」の定義は、日常生活をする上では意識することはありません。

しかし、輸出関連の仕事をするうえで「輸出」と「貨物」の定義が重要な意味を持つことがあります。とるべき手続きに大きな違いが出てくるのです。

 

はじめに関連法規を参照して、そのあと5つの具体例で考えてみます。

  1. ロケット・人工衛星の打ち上げは輸出か?
  2. 南極大陸への物資の輸送は輸出か?
  3. 船舶・航空機の出港は輸出か?
  4. 海外旅行時の手荷物やプレゼントの携行は輸出か?
  5. 海外へのデータ送信は輸出か?

関連法規

関税法と外為法、この2つの法律が関係します。相互に補完しあっているようで、実は違いがあるため、注意が必要です。

趣旨・目的

関税法

関税の確定、納付、徴収及び還付並びに貨物の輸出及び輸入についての税関手続の適正な処理を図るため必要な事項を定める

外為法

外国為替、外国貿易その他の対外取引が自由に行われることを基本とし、対外取引に対し必要最小限の管理又は調整を行うことにより、対外取引の正常な発展並びに我が国又は国際社会の平和及び安全の維持を期し、もつて国際収支の均衡及び通貨の安定を図るとともに我が国経済の健全な発展に寄与する

根拠規定または解釈

関税法

  • 「輸出」 内国貨物(輸出の許可を受ける前の貨物、外国から本邦に到着し輸入許可を受けた貨物、本邦の船舶により公海で採捕された水産物)を外国に向けて送り出すことをいう。(関税法2条1項2号)
  • 「貨物」 定義なし ※関税法の解釈では、運搬可能な有形的財貨であって、大体において民法上の動産に合致するものとされている。

外為法

  • 「輸出」 定義なし ※外為法の解釈では、貨物を本邦の領土から外国に向けて移動させる一連の行為を指す。仮陸揚げ貨物を積み替えて送り出すことを含む。
  • 「貨物」 貴金属*1支払手段及び証券その他債権を化体する証書以外の動産をいう。(外為法6条1項15号)

まとめ

「輸出」の定義は、関税法にあります(関税法2条1項2号)。
外為法の解釈では、仮陸揚げ貨物を積み替えて送り出すことも含みます。

注1 関税法においては、仮陸揚げ貨物は船荷証券等の陸揚港が本邦となっていない外国貨物であるため、外国貨物を積み替えて送り出すことは輸出には当たりません。この点が関税法と外為法で異なります。
なお、仮陸揚げ貨物で外為法の規定により経済産業大臣の許可が必要な貨物は、経済産業大臣の許可を受けたのちに、税関長に対して積戻し申告をして、積戻しの許可を受ける必要があります。手続きは輸出申告に準じた形です(関税法75条)。

「貨物」の定義は、外為法にあります(外為法6条1項15号)。
外為法では、貨物は支払い手段や貴金属とは区別されています。関税法では、貨物に支払手段等や貴金属(金の地金等)が含まれていると考えられます。

注2 支払手段等や貴金属の輸出は、外為法48条及び輸出貿易管理令の対象ではなく、外為法19条及び外国為替令8条の規定の対象となり財務大臣の許可が必要な場合があります。また、税関においては、一定額を超える”支払手段及び証券その他債権を化体する証書”、一定量を超える”金の地金”を携帯して輸出する場合は、申告が必要です*2

具体例と解説

  • ロケット・人工衛星の打ち上げは輸出か?


    ×いいえ。宇宙に向けた輸送なので、輸出の定義には当てはまりません。
    米国法では「宇宙船、打ち上げロケット、ペイロード、その他の物品を宇宙空間に打ち上げること」は輸出ではない、という明文の規定があります。

    なお、ロケットや人工衛星の技術は軍事技術と密接に関連があります。人工衛星等の打ち上げは「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律」で内閣総理大臣の許可が必要になっています。大量破壊兵器を搭載した人工衛星やテロ目的の人工衛星は当然ながら許可の基準を満たしません。 
  • 南極大陸への物資の輸送は輸出か?

    防衛省・自衛隊ホームページ, CC 表示 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=128060358

    ○×はい・いいえ。南極大陸はどの国にも属さない地域なので、関税法の輸出の定義には当てはまりません(と古いテキストで読んだ記憶がありますが、最新の状況は不明です)。しかし、外為法では南極は特定の地域に含まれるので、輸出規制に該当する貨物は、経済産業大臣の許可を取る必要があります。
    なお、関税法において船用品(燃料、飲食物その他の消耗品及び帆布、綱、じゅう器その他これらに類する貨物)については、”積込み”に関して税関長に申告し、承認を受けることとなります。

  • 船舶・航空機の出港は輸出か?

    ×いいえ。運搬手段とされる船舶・航空機は貨物ではないので、輸出には当てはまりません。
    ただし、関税法上は取り締まり対象となっており、出港等の手続きをすることになっています。(船舶、航空機自体を取引の対象とする場合は貨物の輸出として扱われます。)
  • 海外旅行時の手荷物やプレゼントの携行は輸出か?

    ○はい。手荷物やプレゼントは貨物であり、外国に持ち出すことは輸出です。
    外為法の許可が必要な貨物を除いて、輸出申告書の提出は不要です(口頭で申告させることができると規定されています)。

  • 海外へのデータ送信は輸出か?

    ×いいえ。データは貨物として扱われることはありません。
    データの送信は輸出ではありませんが、外為法で特定の技術の提供は規制されており、これに該当する場合は経済産業大臣の許可が必要になります。※なお、米国法において、技術の提供は輸出の一種とされています。

以上のように、関税法、外為法は相互に補完しあっているようで、実は違いがあるので、法律の適用・解釈には注意する必要があります。

*1:貴金属とは、金の地金、金の合金の地金、流動していない金貨その他の金を主たる材料とする物をいう(外為法6条1項10号)

*2:支払手段等の携帯輸出入の手続 : 税関 Japan Customs